ちびじろーとサジータ

 

 あたしがそれに気がついたのは、昨日の夜。
トレーニングが終わって、みんなも帰った後、なんとなくゆっくりしたくて露天風呂に入ったんだ。
そしたら!
「なんだこれ!」
あたしの石鹸が誰かに使われていたんだよ!
びっしょり濡れてるし、すこし泡も残っているから間違いない。
ただでさえ残り少なくなって、ちっこくなってるってのに!
この高級石鹸は、あたしが前に弁護した化粧会社の女社長に頼み込んで、
ものすっごく高いやつを特別価格で譲ってもらったんだ。
脂肪を効率よく燃焼するとか…。

 いやいや、製品の説明はいいんだよ。
問題なのはあたしの超高級脂肪燃焼石鹸を、誰が勝手に使ったのかって事さ!
絶対に犯人をつきとめてやる。
有罪が確定したら情状酌量の余地なしで、新品の石鹸を買ってもらうよ。
新品のでっかいやつをね!

 あたしの調べによるとだね。
あたしより前に風呂に入ったのは二人だ。
二人しかいなかった。
思ったよりもこの事件は簡単に解決しそうじゃないか。
今回の件に関してはあたしは弁護士じゃなくて検事をやるよ。
犯人を追い詰めるんだからね!

 で、その風呂に入った奴だけど、
サニーサイドと新次郎だった。
ラチェットが証言してくれたから間違いない。
サニーサイドのやつはさすがにあたしの石鹸を使ったりしないだろう。
もしサニーだったら窃盗だけじゃすまないよ。
セクシャルハラスメントも当然罪状に加わるだろうね。

 でもまあ奴はそういう人間じゃない。
アホだけど愚か者じゃないからね。
おそらく犯人は新次郎さ。
良く知らないであたしの石鹸を使っちまったんだろう。
一種の事故みたいな物だと思う。

 でもやっぱり過失は免れないよ!
だけどさ、新次郎を責めるつもりはないんだ。
あいつ、アレで結構かわいいからさ。
叱って泣かれるとあとで自分が落ち込む羽目になる。
何をしても、あいつには悪気ってもんがないからね。

 ってことで、保護者である昴に責任を取ってもらおう!
新品の石鹸!
新品の超高級脂肪燃焼石鹸の弁償を要求する!

 

 

 すばるたんとおしごとにいったら、おへやのところでさじーたたんがあしをひらいてたっていました。
ては、こしです。
「なんださじーた、におうだちで…」
におうだちというんだそうです。
すばるたんはさじーたたんをむしして、よこからおへやにはいろうとしました。
「あ!こら!へいぜんとむしするな!」
さじーたたんはあわててすばるたんをおいかけてきました。

 「ようじがあるのなら、そういえばいいだろう…」
すばるたんは、しんじろーをだっこして、そふぁーにすわらせてくれました。
すばるたんもおとなりにすわります。
さじーたたんは、しんじろーたちのまえに、さっきとおなじかっこうです。におうだちです。

 おこっているのかとおもったけど、ちがうみたい。
なんだかちょっととくいげです。
「しんじろう、あんた、きのうなんかしなかったかい?」
きのう、しんじろーはなにをしたでしょうか…。

 「えっと…いちごみるくをつくって…おようふくをよごしちゃってそれで…」
「ちがうよ!」
さじーたたんはゆびをしんじろうにつきだしました。
そのとたん、すばるたんがそのゆびを、くろいせんすでたたきました。
びしー!っておとがした。
「いてー!!」
「ひとにむかってゆびをさしたりするもんじゃない」
「たたくのはいいのかい!」
ああ、けんかになっちゃいます。

 すばるたんのせんすは、まっくろです。
ぴかぴかひかってて、おかーたんがつかっていたのとぜんぜんちがいます。
さわってみたいんだけど、すばるたんはぜったいにさわらせてくれません。
はものがついててあぶないんだそうです。
あぶないのをすばるたんがもっているのは、しんじろーもちょっとしんぱいなのですが、
「みをまもるためにひつようなんだ」
ってすばるたんがいっていたので、しかたありません。

 その、まっくろせんすは、てつでできていて、とってもおもいんだそうです。
だから、それで、びしー!ってたたかれたさじーたたんも、とってもいたかったとおもいます。

 「しんじろう!おまえ、きのうろてんぶろであたしのせっけんつかったろ!」
「あ!」
そうだった。
さにーたんがまちがえて、しんじろーはさじーたたんのせっけんをつかっちゃったんだった。
「いいじゃないか、こどもがいっかいまちがってつかったぐらい」
すばるたんはへいきなおかおです。
まっくろせんすをおくちにあてています。

 「ごめんなさい、さじーたたん。しんじろーはせっけんつかっちゃいました…。まちがっちゃったんです…」
それでさじーたたんはおこってたんですね…。
しんじろーのせいだったんだ…。

 

 

 うっ…。
予定と違う。
「し…新次郎はいいんだよ!どうせ知らないで使ったんだろう?」
しょげちまったぼうやをなんとか宥めようとしているのに、昴のやつはあたしをジト目で見るんだ。
「かわいそうに…そんな事を責める為に朝から僕たちを待っていたのか」
「ち…ちがうよ!あたしはただ…」
石鹸を弁償して貰いたいんだよ!
「さじーたたん。しんじろーがせっけんかってきますから、ゆるしてくれませんか」
おお、それだ!その答えだ!
「あ、ああ、それでいいよ!」
「でも、しんじろーはおかねをもっていないから、はたらきます」
「働く?!」
その言葉にはあたしだけじゃなくて、昴も目をむいた。

 「はたらかないとおかねはもらえません…」
ぼうやはどうやら真剣だ。
「いや、新次郎はいいんだよ!昴が…」
「サジータ…こんな小さな子供を働かせるなんて…」
「働かせたら児童虐待だよ!だから、新次郎じゃなくて、す…」
「ちゃんとはたらきますから!」

 新次郎は立ち上がってあたしの足にしがみ付いた。
「おそーじとか…しょっきあらいとか…」
やめろ!そんな潤んだ目であたしを見るな!

 「も…もういいよ!次からは気をつけるんだよ!」
これ以上は無理だ!
こいつの目はね、
でかくて真っ黒でうるうるしてて、とにかく卑怯だよあれは!
「いいんですか?」
きょとんとしてる新次郎をひっぱがして、襟首を掴んで昴の上に落とす。
「次に使ったら昴が弁償するんだよ!」

 

 

 

 さじーたたんはすごいいきおいで、おへやをでていってしまいました。
せっけん、よかったのかな。
しんじろーがすばるたんをみると、すばるたんはすっごくたのしそうでした。
かたがふるふるしてる。
「はたらかなくてよかったのかな…」
しんじろーがついそういっちゃったら、すばるたんはおおわらいした。
「ふふ…あはは!きみをはたらかせたりしたら、さじーたのほうがゆうざいだ!」
「ゆーざいですか?」
ゆーざいってなんだろう。

 「まあいい。せっけんをかわされなくてすんだ。しんじろうのおてがらだな」
おてがらだったのか…。
すばるたんは、しんじろーのあたまをなでなでしてくれました。
「そうじにしょっきあらいか…ふふふっ…」
まだわらっています。
「しんじろーだってはたらけますよ!」
おうちのろうかを、ぞーきんでふいたりできます。
おてつだいさんのおねーさんといっしょにおにわをはいたり。

 あ、でも、すばるたんのおうちには、おにわもろうかもないんだった。
おそうじも、おてつだいのおねーさんがいっぱいいて、ぜんぶやってくれるんだった。
「しんじろーがおおきくなったら、いっぱいはたらいてもらうよ」
すばるたんは、ようやくわらうのがとまったみたいでした。
「はい!おっきくなります!」
そういうと、またあたまをなでてくれます。
「さにーたんぐらいおっきくなりますよ!」
「さにーぐらい!?あはははは!」
すばるたんは、またわらいだしました。
ほんとうなのにな。
さにーたんぐらい、しんじろーはおっきくなるのに…。

 

 

ならないんだよ…新次郎…。

 

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