ちびじろーとウォルター

 

 おうちにかえるのに、すばるたんはしんじろーをだっこしてくれました。
「なんだかいいにおいだな」
めをつむって、しんじろーのあたまのところを、はなでくんくんにおいをかいでいます。
くすぐったくて、しんじろーはわらってしまいました。

 「いつもとちがうせっけんをつかったのかな?」
あ!そうだった!
さじーたたんのせっけんをつかっちゃったんだった。
「おふろで、まちがってさじーたたんのをつかっちゃったんですよ」
しょーじきにいわないと、あとでおこられるかもしれません。

 「そうか…だいじょうぶ。ばれなきゃへいきさ」
すばるたんは、さっきのさにーたんとおなじようなことをいいました。
すばるたんと、さにーたんは、ちょっとにているとしんじろーはおもいます。
おかおはぜんぜんちがうけど。

 「すばるたんと、さにーたんは、ちょっとにていますよね」
しんじろーがいってみると、すばるたんはものすごいかおをしました。
しんじろーがみたことないおかおです。
すっごくびっくりしたー!ってかお。

 「どこが?!どこがにている?!」
すばるたん、おっきいこえ。
どこがにてるのかなあ。
「よくわかんない…」
なんとなく、にてるんだけどな。
すばるたんは、はーーーーって、すっごくおおきいためいきをついてました。
なんでだろう。
さにーたんはかっこいいのにな。

 きょうはたくしーでかえります。ちょっとおそくなっちゃったからです。
たくしーにのると、しんじろーはいっつもじょしゅせきにすわります。
ほんとうはうしろで、すばるたんとのりたいのですが、
しーとべるとがないから、すばるたんはいつもしんじろーをまえにすわらせます。
しんぱいしょーだからしかたがありません。

 

 

 

 私どものホテルはいつもお客様の事を第一に考えております。
ですから、半年ほど前のある日、突然、九条様がご自分のお部屋に、日本人の男性をお連れになって帰っていらした時も、
私はいたって冷静に対処したつもりでございます。

 あの方が、お部屋に誰かをお通しするなど、まったく初めての事でしたので、
内心は少々心配だったのですが、
やさしげなその少年の様子に、私も安心致しました。

 九条様のお友達の少年は、大河様とおっしゃる方で、
驚いた事に成年でいらっしゃいました。
まだほんの少年だと勘違いをしてしまい、申し訳ない事をしました。
お酒をご所望になられて、初めて気がついたのです。

 大河様が昴様のお部屋にいらっしゃるようになって、九条様は本当にお変わりになりました。
明るく笑ったり、幸せそうに微笑んでいらしたり。
本当はそんな風にお客様の事を観察してはいけないのですが、
ホテルマンとして、お客様が幸せそうにしていらっしゃる事が何より大事な事ですから、
ついご様子を伺ってしまいます。

 クリスマスの夜に、お二人が一緒に過ごされていた時に、
私はたいへんなミスを犯してしまったようでした。
何気ない風を装っておられましたが、お二人は大変良いムードだったようです。
そこへ私がうっかりお食事を運んでしまったわけです。
タイミングを見誤ってしまった事は非常に申し訳ないことでした。

 ある日、九条様は小さなお子様を腕に抱いてお帰りになりました。
その時は本当に驚きましたが、決して顔には出しませんでした。
プライベートに踏み込む事はホテルマンとして許されません。
ですが、そのお子様が、大河様に酷似していたので、私はまたしても驚いてしまいました。

 私は冷静に対応したつもりだったのですが、
さすがに九条様は、私の動揺に気がついてしまったようでした。
「この子は大河の親戚の子なんだ。彼がしばらくここに来られない代わりに預かったんだよ。仲良くしてやってくれ」

 親戚。それならば納得です。
どうりでそっくりだと思いました。

 お子様は非常に素直でかわいらしく。
私の事を、おじーちゃんおじーちゃんと慕って下さいます。
孫の事を思い出し、つい頬が緩んでしまいますが、どんなに小さくともお客様。
一線を越えてしまうわけにはまいりません。

 

 

 すばるたんのおうちはかわっています。
すばるたんいがいに、たくさんひとがすんでいます。
しんじろーのおうちにも、おてつだいさんがいますが、
すばるたんのおうちにはたくさんたくさん、おてつだいさんみたいなひとがいます。

 すばるたんのおせわをしてくれるのは、おじーちゃんで、
お……おー…おうー…う〜ん…。

 「すばるたん…」
「なんだ?しんじろう」
「お…ーうー」
「どうした…」
おうちのいりぐちの所で、すばるたんはしんじろーをだっこしてくれました。
「きぶんがわるいのか?」
「ちがいますよ!」
むずかしいおなまえのひとがたくさんいてこまります。

 しんじろーがこまっていると、そのおじーちゃんがろうかのむこうにみえました。
「すばるたん!お…おー…うぉー」
「ああ、うぉるたーか」
よかった。わかってくれました。
すばるたんもほっとしています。

 「おかえりなさいませ、くじょうさま」
「ただいま、うぉるたー。きょうはなにもかってこなかったんだ。てきとうにゆうはんをたのむ」
すばるたんは、いつもてきとーにたのみます。
「かしこまりました」
おるたーたんは、しんじろーをみてにっこりしています。

 しんじろーはすばるたんからおりて、おるたーたんにくっつきました。
おじーちゃんのにおい。
「おじーちゃんただいま!」
「こら、しんじろう。すまない、うぉるたー」
しんじろーは、おるたーたんのことを、おじーちゃんっていっちゃいます。
おとしよりをおなまえでよぶのは、なんだかちょっとはずかしいからです。

 「よろしいのですよ、くじょうさま」
おるたーたんは、にこにこしています。
「なにかおゆうはんのごきぼうはありますか?」
「うめぼし!」
「なに?!」
しんじろーはにほんのごはんがたべたかったんですけど。
すばるたんは、またすっごくびっくりしたかおになりました。

 「…うめぼしいがいにないのか?」
「おさかな!」
「かしこまりました。うめぼしとおさかなですね。では、ごよういができたらおもちいたします」

 おるたーたんがいなくなったら、すばるたんはなんだかあたまにてをあてていました。
「あたま、いたいんですか?」
しんぱいです。こまったかおだし。
「いや、なんでもないよ…」
すばるたんはにっこりしてくれましたが、なんかへん。

 だから、うめぼしがきたら、わけてあげようとおもいます。
うめぼしはけんこーにいいからです。

 

 

試練の時が今迫る。
ウォルターさんはうめぼしを知っています。
前に昴さんちの食事に出した事があったから。
そのへんの事は「ちびじろーと僕2」の書き下ろしたSSに書いたのですが、
そちらをご存じなくても大丈夫なように書きましたので、ご安心下さい。

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