ちびじろーとサニーサイド

 

 

 大河君が小さくなっちゃったせいで、実は色々と困った事になっているんだ。
星組の隊長が子供!
都市防衛の要がこれじゃあね。
帝都の紅蘭くんには都合上、一応事情を伝えてあるけれど、
大神司令には、僕からはまだ何もいっていないんだ。
紅蘭君が話しちゃってたら、大神司令も知っているかもしれないけど、
知ってたら何か言って来ると思うんだ。
何も言って来ないって事は、知らないんじゃないかな。
僕としてはその方がありがたい。
あんまりこの事態が広まると大変だからね。

 だって、もしも賢人機関にバレたら、僕の首が危ない。
せっかく楽しい仕事なのに、やめさせられたらガッカリだ。

 まあ僕が黙っていれば、めったな事では広まらないとは思うんだけどね。
どうせすぐ元に戻るんだし。
早いトコ戻ってくれないと、掃除してくれる人がいなくて困るんだ。
それに、からかう相手がいないとつまらない。
子供の大河君をいじめると、とたんにみんなに詰め寄られる。
僕の方がいじめられちゃうんだよ。
理不尽きわまりないね。

 で、その大河君が今日僕にジュースを作ってくれたんだ。イチゴミルク。
支配人室まで持ってきてくれてね。
その時僕はびっくりしたよ!だってさあ。
「大河君!今日は和服なのかい?!」
彼が着物を着ていたんだ。
「えへへ…あんりたんがつくってくれたんですよ」

 うーん。さすがに日本人だけあって、子供でも着物が似合う。
ものすごくうらやましい。
「じゃあ、サニー。僕はトレーニングに行くから、新次郎を頼む」
いつも大河君にべったりくっついている昴だけど、最近は練習の間、僕に預けて行く事も多い。
集中できないってね。

 あの昴が集中を乱すってのは相当だ。
考えて見れば、大河君が元の大きさの時も、昴は彼にペースを乱されていたっけ。
信長との戦いで彼が大怪我して運ばれてきた時は、本当に顔面蒼白になっちゃっててさ。
どっちが重症患者だかわからないぐらいだった。
昔の昴だったら、誰がどこで怪我をしても、全然気にしなかったのに。

 昴が出て行った後、僕は大河君にこっそり耳打ちした。
「すごいね、大河君って」
「?」
首をかしげて、さっぱりわからないという顔をしている。
多分、大人の大河君に言っても、同じ顔をすると思う。
鈍感なところが面白い。からかいがいがある。

 「いちごみるく、おいしいですよ」
いつまでも僕が飲まないので、大河君が勧めて来た。
「ああ、頂くよ」
一口飲むと、なるほど美味しかった。
これは、蜂蜜が入っているのかな?
コクが違う。
続けて一気に飲み込むと、彼が目を見開いて僕を見つめていた。
「上手に出来てるよ!ファンタスティックだ!」
大げさに褒めてやると、照れながら頭をかいたりしている。
この時のまんま大人になったんだな、大河君は。

 

 

 さにーたんは、いちごみるくをいっきにのんじゃいました。
すごいなーかっこいいなー。
しんじろーはさにーたんがだいすきです。
すばるたんのつぎぐらいに、すき。
だって、いつも、くっきーとか、ちょこれーとをくれるんですよ。
おふろもいつもいっしょです。
それに、せもたかくって、かっこいい。
しんじろーも、あれぐらいおっきくなるよていです。
おっきくなって、すばるたんをたすけられるおとこになるんです。

 「ちょっとはやいけど、ふろにはいるかい?」
さにーたんはおふろがだいすきです。
「はい!おふろはいります!」
しんじろーもだいすきです。
だって、さにーたんのおふろは、すっごくでっかくて、おそとにあるおふろなんですよ。

 おきものをぬぐのはおようふくよりもかんたんです。
あっというまにぬげます。
「おや、たいがくん、きもののしたにはなにもはかないのかい?」
さにーたんはふしぎそうでした。
「はきませんよ。ぱんつはおようふくのときだけです」
おしえてあげると、うんうんってうなづいて、しんけんなおかおになっていました。
おきもののこと、しらないのかな。

 おふろにはいるときは、まずからだをあらわないといけません。
いきなりはいると、おかーたんはおこります。
でも、さにーたんのおふろはそとだから、ちょっとだけさむいです。
せっけんは、おはなのにおいのするやつとか、
あわがいっぱいでるやつとか、いろいろあります。
「さにーたん、これはなんですか?」
「ああ、それはろーずのかおりのやつだ…ぼくのじゃないからつかったらおこられるぞ」
「はーい」
おふろはみんなでつかうので、じぶんのやついがいのをつかうとおこられます。
さにーたんもいっぱいもってるけど、しんじろーはどれがどれだかわかりません。

 しんじろーがもういっこせっけんをとったら、
さにーたんは、それならぼくのだから、つかってもだいじょうぶっておしえてくれました。
いいにおい。
これもおはなのにおいです。
あわもいっぱいでるやつでした。
あわはたのしいからだいすき。
でも、あわだらけにすると、おかーたんはおこります。
ほどほどのあわじゃないといけません。

 しんじろーはせなかもちゃんとあらえます。
あしのゆびのあいだとか、みみのうしろもちゃんとあらえます。
ぜーんぶあらっておふろにはいると、
さにーたんはにこにこわらっていました。
めがねがないから、ときどきだれだかわかんなくてびっくりします。
「あれ?このにおい…」
しんじろーがさにーたんのあしのうえにのっかると、さにーたんはくびをかしげていました。
「あちゃーまちがっちゃったかな…」
「なにがですか?」
しんじろーもくびをかしげます。
「せっけんさ。これはさじーたのやつかもしれないぞ」
「さじーたたんの…」

 さじーたたんは、こえがおっきいおば…おねえたんです。
まえはおっかなかったけど、かっこいいし、いいひとです。
でっかいばいくにのせてもらったこともあります。
すばるたんにどなるひとはさじーたたんしかいません。
すばるたんは、
「きっぷがいいんだ」
っていっていました。
むずかしくってなんのことだかしんじろーにはわかりませんでしたが、
たぶん、ほめていたんだとおもいます。

 「おこられますか?」
さじーたたんは、おこってもあんまりこわくありません。
すぐにおこるけど、おともだちみたいなかんじがするからです。
「どうかな。だまっていれば、たぶんきがつかないよ」
さにーたんはのんきです。
すばるたんや、さじーたたんがときどきさにーたんをおこるけど、
いっつもへいきなかおです。

 

 

 風呂から上がると、大河君はいつも自分で服を着るんだよ。
だから今日も放っておいたんだけど、なにやら苦戦しているみたいだ。
「さにーたん、ここ、ぎゅーってしばってください」
着物の紐の部分が結べないらしい。
「縛るだけでイイのかな?」
言われたとおりの場所で、適当に縛る。
「ちょっとへんですね…」
文句を言われても、正式な結び方をしらないのだから仕方がない。
「でも、ありがとうございます」
ぺこりと頭をさげたりして、素直なところは大人の時とかわらないね。
「どういたしまして〜」
返事をして彼を抱き上げると、うれしそうにきゃっきゃと笑う。
こんな事が楽しいなんて、本当に子供だな。
荷物のように担ぐと、ますますはしゃいで足をバタバタさせる。
「こらこら。顔を蹴るなよ」
僕の美貌にヒットしたら、いくら小さい大河君の足でもきっとすっごく痛そうだ。
「はーい!」
返事をして、とたんに大人しくなる。
それがまた面白いらしくて、声を抑えてクスクス笑ってる。
本当に子供ってわからないな。

 

 支配人室で大河君はいつも、絵本を読んだり落書きをしたりして過ごしている。
気ままでいいねえ子供は…。
ふとみると、なんだか着物が脱げかけているみたいだった。
いっしょうけんめい絵を描いている大河君は、それを全然気にしていない。
肩は丸出しだし、今は座っているからいいけど、立ったら大事な部分も丸出しかもしれない。
でもまあいっか、子供なんだし裸でも。
僕が目の前の書類に視線を戻すと、部屋のドアがノックされた。
「サニー。新次郎を迎えに来たぞ」
「ああ、どうぞ、あいてるよ」

 昴は仕事が終わるといつも一直線にここに来る。
その溺愛ぶりが面白くって、ついからかっちゃうんだけどね。
大河君が大人の時は、そりゃあもう仲良くしていた物だけど、
子供になっても全然かわらないので驚いた。
昴にとってはどっちの大河君も同じなのかもしれないな。
実際僕も、あんまり違いを感じないし。

 「ありがとうサニー。新次郎、帰るぞ」
「はーい!」
昴は、立ち上がる大河君を見て目をむいた。
その表情にがまた面白くてね。
あんな顔、昔の昴だったら絶対にしな…。
「サニー!」
む。まずいかな。
「なんだこれは!」
怒ってる怒ってる。
「なんだって何が?」
とぼけると、昴は急いで大河君の所に行って、着物を直してやってた。
「これじゃ裸と同じじゃないか!湯冷めして風邪をひいたらどうするんだ…!」
前を合わせ、器用に手早く結ぶ。
なるほど、僕とは全然違う。さっきと違って着物には皺もないし、ピシリとまっすぐに決まってる。

 「すばるたん、しんじろーがちゃんときられなかったからいけないんですよ…」
お、大河君が庇ってくれたよ。
これでもう大丈夫だ。
「…ごめん。中にTシャツぐらいは着せておけばよかったね。寒くなかった?」
ほらね。
昴は、大河君をめったな事で叱らない。
少なくとも僕は見たことがない。
だから、彼が自分のせいだと言ってくれれば、お説教はそこまでさ。

 部屋を出て行く彼らを見守って、
僕は改めて書類に目を落とした。
「つまらないな…」
さっきまでは、観察する興味深い対象がいたのに。
時々からかったり、一緒に遊んだりしてさ。
昴はいいなあ。彼を持ち帰れて。
今度僕も連れて帰ってみよう。
なんかいい理由を考えないとな。

 

 

サニーはちびじろーをほったらかしつつかわいがっています。
構いたい時だけ構って。
人の家の犬をかわいがるみたいな。
いいとこどりです。

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