ちびじろーとダイアナ

 

 あんりたんが、しんじろーにおきものをくれたから、
しんじろーはうれしくて、しあたーのなかをいっぱいはしりました。

 すばるたんは、しんじろーがはしると、いつも、
あぶないからやめなさいっていいます。
「こら、はしるとあぶないぞ。こっちにおいで」
やっぱりです。とってもしんぱいしょーです。
しんじろーのほんとうのおかーたんも、ずっとまえにおんなじようにいいました。

 でも、あのときしんじろーは、ぜったいころんだりしないとおもっていたので、きこえないふりをしたんです。
そしたらやっぱりころんじゃって、ひざのとこからちがでました。
おかーたんに、
「ほらみなさい、いうことをきかないからですよ」
って、おこられました。

 「はーい!すばるたん!」
だから、ころばないうちにとまらないといけません。
はしりっぱなしだと、つかれるし、ころんでひざからちがでます。
ここはゆかがつるつるだから、よけいにあぶないです。

 はしるのをやめたのに、すばるたんのところにいこうとしたら、
あしのとこがひっかかって、しんじろーはころんでしまいました。
ひさしぶりにおきものをきたので、ちょっとしっぱいしちゃったんです。
「しんじろう!!」
そしたら、すばるたんはものすごいいきおいでしんじろーのところにはしってきました。

 さっき、はしったらあぶないぞっていったのに、じぶんがはしっています。
あんなにはしるのがはやいひとは、あんまりいないとおもいます。
むこうのほうにいたのに、しんじろーがころんで、たとうとしたら、もうめのまえにいました。

 「だいじょうぶか!?」
「えへへ。ころんじゃいました」
ゆかがぴかぴかだったので、おきものはよごれないですみました。
よかった。せっかくあんりたんがくれたのに、もうよごしちゃったら、またあんりたんにおこられます。
「みせてみろ!」
すばるたんはしんじろーをだっこして、いすのうえにのっけました。
ひざとか、あしくびのとことかを、まわしたりつっついたりしてしらべます。

 ころんだときはちょっとだけいたかったけど、ちもでてなかったし、もうへいきです。
「すばるたん、どこもなんともないですよ」
なんともないのに、すばるたんはものすごくしんぱいそうでした。
「みためはなんともないけれど…ひねったりしていないかな…」
すばるたんはほんとうに、しんぱいしょーです。
おかーたんなんか、ちがでても、ほらみなさいっていってたのに、
ちがでてなくても、すばるたんは、なきそうなかおです。

 

 

 「ダイアナ、新次郎を診てやってくれないか」
昴さんが、青いお顔で私の所へ駆け込んでいらっしゃいました。
「どうなさったのですか?」
「フロアで新次郎が転んで…」
それは大変です!お怪我でもなさったのでしょうか!?
昴さんに抱っこされている大河さんを見ると、さっきまでとは違う、変わったお洋服を着ていました。
「あんりたんが、しんじろーにつくってくれたんですよ!」
「まぁ素敵…和服ですね」
「はい!」
大河さんは元気に返事をなさって、昴さんの腕から飛び降りてしまいました。

 「あっこら…」
昴さんは慌てていらっしゃいましたが、どうやらお怪我はなさそうです。
「だいあなたん、しんじろーは、けが、していませんよ」
大河さんは立ったまま、私に裾をまくりあげてみせてくれました。太股のあたりまで丸見えです。
「まあ、そんなにおみあしを大胆に…はふぅ…」
「ダイアナ!」
いけない、私とした事が。
うっかり元の大河さんの太股を想像してしまいました…。
昴さんに支えて頂くなんて…。

 「だいあなたん、だいじょうぶですか?」
「え…ええ…だいじょうぶですよ。大河さんも大丈夫みたいですね」
心配そうに覗き込んできてくださるその目は、やっぱり大河さんそのものです。

 昴さんも日本の方ですが、お二人の目は全然違います。
どちらも漆黒の宝石のように美しくていらっしゃいますが、
昴さんの瞳は磨き上げられたようにするどく輝いていらっしゃいますし、
大河さんの目は、丸くて、大きくて、とってもかわいらしいんです。

 「それにしても、やっぱり和服がお似合いですね」
着物を着ていらしても、違和感がまったくないです。
「えへへ…おきものだと、ぱんつもはかなくていいんですよ!」
「!!」

 今…今…今、大河さんはなんとおっしゃったのでしょう…。
「はふぅ…」
「ダイアナ!」
再びよろめいてしまった私を、昴さんは椅子に座らせて下さいました。
「本当に大丈夫か?ダイアナ…」
昴さんにご心配をおかけしてしまいました。
「ええ。大丈夫です」

 さっき、大河さんが足をめくって見せてくださったとき、
太股の上のほうまで見えていました。
なんということでしょう!
なんて危険な!
あと数センチ上だったなら…。
非常にざんね…。
い…いえいえ、非常に危ないところでした。

 「大河さん。あまりお外ではお着物をめくってはいけませんよ…」
せいいっぱいのご忠告を差し上げる事しかできません。
「なんでですか?」
ああ。なんて無垢でいらっしゃるのでしょう。
「新次郎。外には色々な人間がいるんだ。それに、行儀が悪いぞ」
「はーい。おぎょーぎわるいですね。わかりました」
首をかしげながらも素直にお返事をする大河さんもかわいらしいです。

 「騒がせてすまなかったね…。やっぱり信頼できる医者に診てもらわないと安心できなくて…」
「まぁ…私なんてまだまだ見習いですし…。でも、お怪我がなくてよかったですね」
照れたように笑っていらっしゃる昴さん。とっても素敵です。
めったに見られない表情ですし。
「もしも後遺症が残ったりして、元に戻った時に何かあったら困るから…」
あらあら、まだ言い訳をしていらっしゃいます。うふふ。

 お二人は手を繋いで去っていかれました。
その後姿は仲の良い兄弟のようにも、親子のようにも見えます。
いずれにしても、とても微笑ましい光景です。
お二人の仲を応援する一人としては、本当に心温まります。
そうだ!

 その時、私の心にちょっとだけ、いたずらな気持ちが湧いたのです。
キネマトロンを取り出して、お二人の中睦まじい後姿を一枚、写真に撮ってしまいました。
「うふふ…良く撮れてる…」
お二人の愛情が伝わる素敵な写真だと思います。
昴さんはお写真がお好きではないと聞いていますが、
きっと、ちいさな大河さんと一緒のお写真ならば、それほど嫌がらないと思うんです。
いつか、大河さんは元の大河さんに戻られるのですし…。
「その時まで、お預かりしていてもいいですよね…」
撮った写真をそっとお財布にしまって、つい笑ってしまいました。
幸せそうなお二人を見て、それ以上に私が幸せなキモチになってしまったから…。

 

 

ダイアナさんが危険な人物になってしまいました。
違…違うんです…。

TOP 漫画TOP

マイキーで。

inserted by FC2 system