冬の大事件 13

 

 「サニー、起きているかい?」
昴は司令室のドアをノックした。
いつもなら返事がなくとも気にせず開けてしまうのだが、キャメラトロンの返事をまだ貰っていないので慎重だ。
もしもまだ寝ていたりしたら気まずい。
しばしの間返事を待つと、中からとことこと軽い足音が近づいてきた。
馴染みのある音に昴は思わず頬が緩んでしまう。
たった一晩会えなかっただけなのに、一刻も早く顔がみたくてうずうずした。

 ドアは思いのほかゆっくりと開いた。
顔を覗かせた子供に昴は笑顔を向ける。
「おはよう新次郎」
「しー」
ドアを少しだけ開いた新次郎は口の前に指を一本立てて静かにするように示した。
昴が瞬きすると、新次郎は扉から出て昴をひっぱり再び屋上へ出る。

 「おはようございますすばるたん! おかぜ、なおりましたか?」
「おはよう。僕はちゃんと回復したけれど……。いったいどうしたんだい?」
新次郎の行動に昴は首をかしげた。
新次郎は昨日と変わらず元気いっぱいで、買ったばかりの冬服はボタンがあちこちずれていた。
昴は彼の正面にしゃがみこんで、ちぐはぐになっているボタンを付け直してやる。
きっと自分で苦心しながら着たのだろう。
そう思うとちぐはぐなボタンもかわいらしい。

 新次郎は昴がボタンを直してくれる指先を見つめながら話を続けた。
「きょーはさにーたんがおかぜです」
「サニーが風邪?!」
思わず大声を出した昴の声を聞いて、テーブルの上の雪ウサギで和んでいた星組一同も振り返る。

 「さにーたんはずっとくしゃみです。ぶれすゆーがたいへんです」
「お、新次郎良く知ってるな!」
サジータは新次郎の前まで歩み寄ると、頭をぐりぐりと強く撫でた。
「さにーたんが、くしゃみをしたらそういうんだっておしえてくれました」
「そうか……それで、サニーは寝ているのかい?」
それならキャメラトロンの応答がなかったのも頷ける。
風邪をひいて寝込んでいたのだ。

 「はい。おねんねです。あしがおっこちてますよ」
「足?」
「なんかいのっけてもおっこちちゃうんです」
昴が聞き返している間にダイアナは急いで司令室へと向かった。
昴もその後に続く。
他の面々は大勢ついて行っても邪魔になるだけだろうとその場に残った。
昴について行こうとした新次郎も捕まえる。
あっちこっちに隠されるように置いてある雪ウサギの存在が気になったせいだ。

 「おじさま、失礼します」
ダイアナがそっと扉を開けると、サニーサイドがソファの上でぐったりしていた。
「まあ!」
新次郎が言っていた通り、長い足の片方がソファから落ちて非常に情けない格好だ。
サニーサイドは眉間に皺を寄せ呻いている。
「頭痛が酷いんだよ……。昨晩冷えすぎて……」
「しかし手当てはできたようじゃないか」
昴はサニーサイドの額に乗せられた濡れタオルや傍に置かれたカップを見てそう言った。
「ああ、大河君が全部用意したんだよ……」
「新次郎が?!」
昴は驚いて部屋を見渡した。

 確かに、大人がやったにしては周囲が水浸しだ。
しかもなぜか、ぐっしょり濡れたバスタオルまで放置してあった。
ついでに桶の中には室温で溶けかかって、崩れてしまった雪ウサギ。
「はは、寂しくないようにって大河君が持ってきてくれたんだ」
「新次郎がこれを……?」
昴は置いてあったカップを手に取る。
冷めてはいたが、まだほんのりと温かい。
「何も言わなくてもお湯を持ってきてくれたんだよ。昴、一緒に帰っても平気だったんじゃないかい?」
サニーサイドはそう言うと呻きながら上半身を起こした。
「おじさま、寝ていらしてください。今お薬を用意しますから」
ダイアナは駆け足で部屋を出て行った。
サニーは体を起こし、額に乗せられていたタオルを手に取ると上気した頬のまま苦笑する。
「小さくても大河君なんだねえ。今日は改めて実感したよ」
「僕は毎日実感している」
昴は得意げにそう言って笑った。

 

 「これがじぇみにたんでーこっちがさじーたたん」
テーブルの上にいる沢山の雪ウサギの説明を、新次郎は一生懸命繰り返す。
「リカはこれだな! じょうずだなしんじろー!」
「りかたんもつくればいいですよ。いっしょにやりましょう」
「作る! リカも作るぞ! ノコを作りたい!」
「おふろのほうにまだいっぱいゆきがありますから」
子供二人はじゃれあうようにしながら露天風呂へと消えていった。

 残されたサジータとジェミニはそれぞれ自分だといわれたウサギをにこにこと見守っていた。
「どうした二人とも、にやけて」
戻ってきた昴は不審な視線を向ける。
「あんたもすぐに同じ顔になるさ。これ、あんたなんだってよ」
サジータが指し示したウサギは他よりもいくらか小さく、隣には一番小さいウサギがぴったりと寄り添っていた。
「ふふ、そうか……」
昴は自分ではなく、新次郎のウサギを撫でてやる。
そうしてから近くに残っていた雪をかき集め、器用に丸め始めた。
ある程度の大きさになった所で目と耳をつけ、新次郎のウサギを間に挟んだ位置に置いてやる。

 「誰だいそれ?」
「あ! ボクわかった!」
ジェミニは嬉しそうに手を叩く。
「新次郎でしょ! 大きいほうの」
「うん。今大河がいたらいいと思ってね
昴はぽつりと呟いた。
「子供の彼と大人の彼、両方いてくれたらいいのに。いつもそう思うよ。きっと雪を喜ぶはずだ」
テーブルの上のウサギは両方揃っているのに、本物がいないことが寂しい。
雪を見たら今と同じようにウサギを作ってくれるに違いない。

 しんみりした雰囲気を吹き飛ばすようにサジータが豪快に笑った。
「そりゃ贅沢すぎるよ。どうせ昴が両方独り占めなんだろ?」
「当然だ」
昴はきっぱりと返事をして、露天風呂から聞こえてくる楽しげな声に耳を澄ませた。
「よし、僕たちも参加しようか。ウサギ作り」
「いいねえ。あたしゃでっかく作るよ」
「ボクは子ウサギをいっぱい作ろうっと!」
「じゃあダイアナも呼んでこよう」
昴は席を立ち軽快に歩き出す。

 その日昴は最初に自分が作った大河の雪ウサギと、新次郎が作った昴のウサギとを、仕事の間冷凍庫に入れ保存し、
ドライアイスの入った箱に詰めて大事に持って帰った。
いつか大河が元に戻った時に、みせてやるつもりで。

 

雪ウサギカップルはホテルの厨房にある、でかくて超寒い冷凍庫に大事に補完される事でしょう。

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見せた後も保存しておきそうです。

 

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