冬の大事件 12

 

 昴は早朝すっきりと目が覚めた。
昨晩なかなか寝付けなかったが、一旦眠ってしまえば不調だった事も手伝って、かなり深い睡眠がとれた。
普段あまり深く寝入ることのない昴にとって、短時間でもぐっすり眠った事が大変な休養になった。

 けれどもすぐに、いつも隣にいる小さな子供がいない事に気がついて目を伏せる。
「やはり連れて帰ってくればよかったかな……」
彼がいないことで昨晩から随分とさみしい思いをしているが、静か過ぎる朝は格別孤独感が身に沁みた。
多少体調が悪くともやはり連れて帰ればよかった。
そう考えてから首を振る。
いくら寂しくとも大事な新次郎に風邪をひかせてしまっては、いまよりもっと後悔するだろう。
昴は溜息をついてベッドから下り、支度を始める。
彼に早く会いたいのなら、急いで出勤するまでだ。
身支度の途中でウォルターに連絡をし、タクシーを呼んでもらう。

 昨日感じたぞくぞくするような悪寒はまったくなかった。
昴は手早く朝の準備をすませ、早々に部屋を出てロビーへと向かう。
早く新次郎に会いたい。
エレベーターの中で素早くキャメラトロンを操作し、サニーに向けて通信を送る。
(体調は万全だ。これから出勤する。新次郎はもう起きただろうか)
あの二人が一晩一緒に過ごしていたのかと思うとなんだか少しおかしかった。
サニーサイドはあんな風だが、いつも新次郎の世話を結構ちゃんとしてくれている。
子守に慣れてきていると言ってもいいだろう。

 タクシーの中で昴はサニーの返信を待ったが、いつまで経っても返事はやってこなかった。
もしかして寝こけているのかもしれない。
夜更かしして遊んでしまったせいで起きられないとか。
あの二人なら大いにありえる。
シアターに到着する頃になっても返事が来なかったので、昴は少しだけ不安になった。
今まで何も連絡がなかったのだから無事だとは思うが、無応答なのが気になる。

 フロアに入ると丁度出勤してきたリカとサジータに出合った。
「今日はやけに早いじゃないかサジータ、何か目的でも?」
「あんたこそ、まだ家で寝ていた方がいいんじゃないかい?」
昴は扇で口元を覆い、サジータは口の片側をにやりと上げて視線をバチバチと交錯させる。
それを見ていたリカは楽しげにだった。
「いっつも仲いいなーすばるとサジータは! リカはしんじろーんとこに行こーっと!」
リカの言葉に二人はハッとして顔を見合わせた。
喧嘩している場合ではない。

 エレベーターの前にはジェミニとダイアナがいた。
丁度下りてきたエレベーターに乗るところだったようだ。
後から来た3人も便乗して狭い箱の中に5人で詰まる。
「昴さん、お加減はいかがですか?」
「すっかりいいよ、ありがとうダイアナ」
「まったくさあ、もう一日ぐらい寝てりゃあ今日はあたしが新次郎を連れて帰ったのに……」
サジータがぶつくさ言っている間にエレベーターは屋上へと到着した。

 「わっ! 危ない!」
エレベーターを降りようとしたジェミニは一歩踏み出そうとして片足でジャンプした。
足元に小動物がいたように見えた。
ノコかと思ったのだ。
けれどよく考えたらノコは今現在リカの肩の上にいる。
足元の動物をよく見ると、それは雪で作ったウサギだった。

 「うわー! かーわいいー!」
ジェミニは歓声を上げてしゃがみこみ、小さなうさぎの頭を撫でた。
「いっぱいあるぞ!」
「うはー。 ほんとだ。なんだこりゃ」
「まあ、なんてかわいらしいんでしょう」
リカが最初に気がついたが、エレベーターから降りた面々はすっかり変わった屋上の光景に思わず笑ってしまった。

 広い日本庭園のあちこちに雪のウサギがおとなしく座っている。
池の橋の上や敷石のそこかしこに、愛嬌のある表情のウサギがいた。
昴は事情を察して微笑む。
「新次郎が作ったんだな」
当の本人の姿が見えなかったが、昨日ウサギを沢山作ってくれと言ったからこんな事になったのかもしれない。

 「あ! これ、ウサギじゃなくてノコだ!」
リカが前日に作った雪だるまもしっかり残っていた。
その片方の肩には雪ウサギ。もう片方にはノコのつもりなのか胴体の長い生き物がいた。
目は赤い木の実ではなく、小さな石が埋められている。
「上手だなーしんじろー」
リカは嬉しそうに雪ノコをつつき、ノコ本人は雪ダルマに飛び乗って自分を模して作った雪ノコをクビをかしげて覗きこんだ。

 昴はあたりを見渡した。
新次郎の作ったウサギは大量にあるのに新次郎本人がいない。
「新次郎!」
声を出して呼んでみるが返事はなかった。
どうやら近くにはいないらしい。
もしかして本当にまだ司令室で寝ているのだろうか。いくらなんでも寝坊すぎる。
昴は苦笑して司令室へと向かった。

 

屋上がウサギの楽園に。

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簡単に作れそうですよ。

 

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