冬の大事件 5

 

 「さにーたん! しんじろーはすばるたんとおうちにかえれますよね」
「なんでそんな事聞くんだい?」
司令室に飛び込んできた子供は、入ってくるなり息を切らしながら聞いて来た。

 サニーサイドはデスクに山になっている書類の一枚を手にとって素早くペンを走らせる。
そうしながら真剣な表情で自分を見つめる新次郎に問いかけた。
「帰れない理由なんかないだろう?」
「すばるたん、おかぜなんですって……」
「風邪?! 昴が?!」
サニーは思わず目をむいた。
そんな事が起こるとは夢にも思っていなかった。

 「ありえないだろう〜。昴が風邪なんて」
「でも、さっきふらふらしてました。おかおもあかかったし……」
「ふ〜ん……」
新次郎は勝手知ったる司令室を歩き、ソファの上に大人しく座った。
「だから、さじーたたんがきょうはあたしのいえにこなきゃだめだっていうんです」
それを聞いてサニーは笑う。
昴が風邪だといち早く知ったサジータが、新次郎獲得に最初に乗り出したというわけだ。

 「君はどうしたいんだい?」
「すばるたんのおうちにかえりたい……」
そう言ってから、口を尖らせる。
「すばるたんがおかぜでも、しんじろーはちゃんといいこにしてます」
新次郎は鼻をすすって泣くのを我慢しているようだった。

 「でもねえ、君がいるとやっぱり昴は寝ているわけにはいかないと思うよ」
サニーは新次郎を見ずに、書類仕事を続けながら話した。
「昴を困らせたくないのなら誰か他の人の家に泊まらせてもらうしかない」
言ってからチラリと彼の様子を見ると、新次郎は俯いて手の平をぎゅっと握っていた。
その姿が、驚くほど元の大河新次郎と重なって見えてサニーサイドは目を瞬く。

 「じゃあさにーたんといてもいいですか?」
しばらく考え込んでいたが、新次郎は意を決したように口を開いた。
「ボク?」
そう来るとは思っていなかったのでサニーも手を止めて顔を上げる。
「さにーたんがいい」
「ふーん……」

 新次郎はシアターの人員の中で、昴の次にサニーサイドに懐いていた。
接している時間が長いせいもあるし、たった一人の男性だったせいもある。
だから、もしも昴の家に帰れないのなら、サニーといたいと単純に願った。

 「じゃ、家に帰るのもめんどくさいし今日は二人でここに泊まろうか」
サニーサイドはあっさりと新次郎に許可を出した。
着替えなどは常に何着かシアターに常備してあるし、
仕事が詰まって家に帰るのが面倒くさい時にはいつもここで寝泊りしていた。
必要な物はすべて揃っているから問題ない。
「いいんですか?! しあたーにおとまり!?」
「ああ、きちんと言う事を聞くと約束できればね」
「しんじろーはいいこにしてます! すばるたんにさにーたんといていいかきいてくる!」
新次郎はソファの上から飛び降りると、入った時よりも勢い良く司令室を出て行った。

 

 「あ! 新次郎!」
司令室の前ではサジータとジェミニがなにやら話し合っていた。
新次郎を迎えに来たジェミニだったが、サジータに様子を聞いて部屋に入ることを躊躇っていた。
丁度そこへ小さな彼が飛び出してきたので手を伸ばして話しかける。
「昴さんが……」
呼んでるよ、と言うつもりだったのだが、新次郎は素早く二人の間をすり抜けて走り、椅子を手にしてエレベーターの元へと運んだ。
「エレベーターで下に行くの? ボクがボタンを押してあげるよ」
「ありがとうございます。じぇみにたん」
新次郎は椅子を戻すとぺこりと頭を下げた。

 そのかわいらしい仕種にジェミニもサジータも頬が緩む。
うまくすれば今日は彼を家に連れ帰れるかもしれないのだから。
「昴さんが新次郎を呼んでたよ」
「しんじろーもいますばるたんのとこにいくところでした」
「帰りたいって駄々をこねる気だろ」
サジータがにやりと笑うと、新次郎はそっぽを向く。
「そんなことしません」
つんと上を向き、やってきたエレベーターに乗り込んでしまう。
「ボクも行くよ!」
「あたしも降りようっと」

 新次郎と交渉するよりも、直接昴と話した方が早そうだとサジータは踏んだ。
いくら彼が嫌だと言っても、昴がそうしろと命じてくれればきっとこの子は従うと思っていたからだ。
「あたしんちに来るなら、バウンサーで家まで帰れるんだぞ」
サジータはエレベーターの中でも自分をアピールする。
「あっずるいサジータさん! ボクんちだってラリーがいるよ、新次郎!」
「ジェミニはもう新次郎を一回家に泊めてるだろ!」
下へ到着するまでの短い時間、二人はほのぼのと新次郎をめぐって言い争いをした。

 

サニーさんが獲得したようです。

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子供とでかい子供。

 

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