はじめての…… 8

 

 新次郎とリカは銀行にたどりつき、自分達の順番が来るのを待合室の椅子の上で大人しく待っていた。
「あーあ、まだまだ順番まわってこないぞ」
リカは手元に印刷されたナンバーの札を見て溜息をつく。
「あとどれぐらいですか?」
新次郎が聞いたとき、ポンと軽やかな電子音が流れ、新たな数字が呼び出された。
「今の人の次の次の次の次の次の……次!」
「つぎのつぎのつぎのつぎの……???」
途中でわからなくなってしまい、目を白黒させる。

 新次郎は頭の上に乗せたノコを手でやさしく掴み、膝の上に乗せてやった。
なめらかな触り心地が気持ちいい。
やさしく撫でてやりながら、新次郎は前々から気になっていたことを思い出す。
「ねえりかたん。のこたんは、なんなんですか?」
なんなのか、と抽象的な事を聞かれ一瞬リカは首をかしげたが、すぐに新次郎が何を聞きたいのかわかった。
「ノコはイタチだぞ。イタチは胴がながーいんだ! フェレットだ! あとな、なんでも食うんだぞ」
「へー……。かわいいな、しんじろーもほしいなぁ」
「すばるに頼んでみろ。もしものゴハンになるし、便利だぞー!」
「うきゅー……」
元気のない泣き声を上げるノコを見て、新次郎は笑う。
まるで言葉がわかっているみたいだったから。

 しょげている小動物を撫でてやりながら顔をあげると、新たに銀行に入ってきた2人組の男達が見えた。
2人ともかなり大柄で、真っ黒なショルダーバッグを抱えている。
その中のひとり、サングラスをかけ、金髪のヒゲを顎にもじゃもじゃとはやした男が振り返る。
思わず新次郎が身を硬くすると、男はニッと笑った。

 「きゃっ」
新次郎は思わず小さく声をあげ、リカにしがみ付いてしまった。
「どーした? しんじろー」
「あそこのおじさん、おっかないです」
新次郎に言われてリカも男達を見やった。確かに怪しい雰囲気だ。
「だいじょーぶだ、しんじろー! リカは強いんだぞ! もし悪いのがいても、リカが傍にいればだいじょーぶ!」
「はい。りかたんはつよいから、だいじょーぶ」
新次郎はノコをリカに返し、代わりに鉄扇を腕の中に強く握る。
大丈夫。
頼もしい味方がいてくれるし、昴と同じ武器もある。
重くて運ぶ事すら大変だったが、今はその鉄の塊がとても頼もしく思えた。
まるで昴が傍にいてくれているみたいに。

 そうこうしている間に、リカの順番が回ってきた。
リカは新次郎の頭を撫でてやり、ノコを隣の椅子に置いていいつける。
「いいか、ノコ、リカがあっち行ってる間、しんじろーを守るんだぞ」
「うきゅ!」
ノコは頼もしく返事をすると、新次郎の膝の上に乗り、二本足で立ち上がった。
心なしか目元も凛々しくなっている。

 リカが受付に行ってしまうと、途端に新次郎は心細くなってしまった。
なぜか2人組が気になって仕方がない。
背筋がざわざわしてきて、鉄扇を持つ腕にも力が入る。
「うきゅー……」
「だ、だいじょうぶですよ、のこたん」
新次郎がそう言った途端、銀行内に轟音が轟いた。

 

 「全員大人しくその場に伏せろ!」
2人組は持ってきていた黒いバッグから大型の拳銃を取り出して、見せ付けるように振り回す。
金ヒゲの男が持っている拳銃からは煙が上がっていた。
どうやら先ほどの轟音はこの男が銀行内で発砲したせいのようだ。
男達が新次郎とリカのいる場所の丁度中央あたりに立っているせいで、お互いの近くに行くことが出来ない。
リカは身振りで新次郎にじっとしているように、と伝えた。
「男はそっち、女はあっち側に寄れ!」
殺傷能力のある武器をふりかざす犯人に居丈高に命じられ、客も行員も大人しく従うしかない。

 新次郎はリカの元に駆け寄りたかった。
けれども間に男達がいるし、リカが身振りで従うようにと伝えてきている。
泣き出しそうになるのを必死で堪え、指示に従って銀行の隅っこに他の男性客たちとともに大人しく座る。
抱えている鉄扇と、今は肩の上に乗って犯人を睨みつけているノコが頼もしい。

 客達が全員従うのを確認すると、男の一人が行員にボストンバッグを渡し、中に現金を詰め込むように命じた。
その間も残る1人は店内を油断なく見渡している。
リカは女性達と一緒に新次郎とは反対側の隅に座らされ、彼らが油断する一瞬を待っていた。
相手がひとりならどうにでもなったし、他に客がいなければもっと無茶をしたのだが、
今は慎重にならざるをえない。
犯人の様子をじっと見つめながら、同時にチラチラと新次郎を見る。

 (だいじょーぶだからな!)
口だけでそう伝えると、新次郎はコクリと頷いた。
ちゃんと伝わった。
リカは再び犯人を睨みすえた。
かわいい弟分を怖がらせる2人組が心底憎らしい。
新次郎を守ると彼に約束したし、サニーにも大丈夫だと言って出てきた。
なによりも、昴に心配をかけるわけにはいかない。

 顔を上げると新次郎が心細そうな顔でリカを見つめていた。
だいじょーぶ。
もう一度そう口を動かして、ニッと笑う。
リカは前をはだけて着ていたポンチョをしっかりと合わせた。
その中で、愛用の銃を両手にしっかりと握る。
おねーさんとして、なんとしても、弟分だけは守りぬかなければ。

 

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いつでも銀行にいる。

 

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