はじめての…… 6

 

 サニーサイドは、あはは、と湿った笑いを浮かべた。
凍てつく視線をやり過ごすためにも、心の平安を少しでも得るためにも、まずは自分が笑うしかなかった。
けれども目の前で腕を組み、美しい立ち姿でこちらを睥睨している昴はニコリともしない。
「新次郎がROMANDOにいる理由を教えてもらおうか?」
「いやーリカがさあ……」
「リカが?」
帰ってくる言葉はひたすら重く、冷たい。

 サニーサイドはなるべく丁寧に事情を説明した。
自分の責任にならないように、丁寧に。
「大河君もさ、もうハタチなんだから、お使いぐらい……」
最後に余計な一言を付け加えてしまうのが彼の悪い癖だ。
「なにがハタチだ!!」
当然昴の逆鱗に触れる。
「でもほら、パスポートだと……」
「ふざけているのか?!」
昴にしてはめずらしく、大きな声を出している。

 「リカが一緒なんだな?」
「うん。二人で行ったから平気だよ。ボクもさあ、そりゃあ心配だったけど、冒険したい子供を止めるのは難しいよねえ」
「止めるのが大人の義務だろう!」
「あれ? カワイイコにはタビをさせろって日本では言うじゃなかったっけ?」
サニーサイドは自分の知っている日本の知識が間違っていたのかと、首をかしげる。
「新次郎はまだ幼すぎる。ましてやここは紐育なんだぞ!」
昴は最後にそう叫び、くるりと優雅にターンした。
怒っていても所作に乱れはない。
「あ、どこいくの?」
「決まっているだろう。迎えに行く」
振り向きもしない昴に、サニーサイドは思わせぶりな口調で呟いた。
「それはちょっとマズイんじゃないかなぁ?」
「どういう意味だ」

 昴が立ち止まったので、サニーサイドはニヤリと笑う。
デスクに両肘をつき、その上に顎をのせて楽しげだ。
「考えてごらんよ。せっかく自分達だけでお使いにいったのに、昴が迎えになんか行っちゃったらさあ」
「……」
「あれ? わかんない? きっとしょんぼりするよー大河君」
サニーは大げさに手を広げ、昴の表情を盗み見た。
サニーサイドの言葉を反芻しているようだ。
「リカだって、せっかく大河君をまかされて張り切ってるのに、信用してもらえてないって悲しむよ。……多分」
最後の多分、を聞こえないぐらい小さな声で呟いて、もう一度昴を見る。

 「……わかった……」
不満げに唸りつつもそう答え、昴は顔をあげた。
「リカと新次郎には見つからないように探しに行く。もしも入れ違いで二人が帰ってきたら連絡してくれ」
「……結局行くんだねえ……」
「当然だ!!」
昴は叫ぶと、身を翻して今度こそ部屋を去って行ってしまった。

 

 「……何か聞こえますか? サジータさん」
「シッ。なんかもめてるみたいだよ」
「おじさま、大丈夫でしょうか……」
屋上の扉に耳をつけて、ジェミニ、サジータ、ダイアナの3人は聞き耳を立てていた。
しかしさっぱり聞こえない。
司令室との間には秘書室もあるのだから、きこえなくて当然なのだが。
「あ、なんか足音が……」
「ちょ……サジータさん、避けて!」
「ぎゃー!」

 ジェミニとダイアナは逸早く回避したものの、いつまでも未練たらしく壁にはりついていたサジータが、
扉の開く勢いに負けて吹き飛ばされた。
「……何をしている……」
ひっくり返ったサジータに手を伸ばし、昴はやれやれといった表情で彼女を助け起こした。
「あはは、ちょっと通りかかっただけ」
「通りかかったにしては随分扉に近かったようだけど」
昴は苦笑して今来た部屋と扉を振り返る。
こんな場所でいくら聞き耳を立てても何も聞こえなかっただろう。
困った同僚達だが、自分の事を心配してのことだ。怒る気にはなれない。
「僕は少し外に出てくる。迷惑をかけるけど、みんなだけで練習していてくれ」
「あいよ。手伝わなくていいのかい?」
サジータは体についたほこりを払い、問いかける。
「ああ、大丈夫。どうやら少人数の方がいいみたいだからね」
隠密活動は個人でやるに限る。
昴は薄く微笑んで、エレベーターに乗り込んだ。

 

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サニーが心配だったみんな。

 

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