はじめての…… 5

 

 「リカ、そっちのやつがいい!」
目の前にさまざまな色合いの扇子を広げられ、リカは大喜びでそれらをあさった。
その中のひとつに、白いネズミの描かれた扇子を見つけて加山に差し出す。
「これ!」
「ああ、干支を描いた奴だな。ノコにそっくりだもんなぁ」
「うん! ノコそっくりだ! リカこれにする!」
「新次郎は?」
加山が聞くと、新次郎は困ったような表情で扇子の山と加山の顔を交互に見た。

 「しんじろーは……」
鉄の扇を抱きしめる腕に力を込める。
「……これでいいです」
「何?!」
加山は驚いて思わず持っていた扇の山を盛大に落としてしまった。
「で、でもな新次郎、鉄扇なんて、重すぎるし持って歩けないだろう?」
「あるけます」
そう言って、よろよろと歩いてみせる。
「リカも手伝うぞ! ノコも手伝う! な、ノコ?」
「ウキュ〜……」
迷惑そうなノコを無視して、リカは自信満々に胸を叩いた。

 「おかね、ちゃんとありますから」
新次郎は鉄扇を床に置き、ポケットから小銭の入った財布を取り出す。
財布ごと受け取った加山は心底困り果てた顔をした。
どう多めに見繕っても足りるとは思えない。
それになにより、このまま鉄扇を売ってしまっては非常にまずい。
絶対に昴に文句を言われるだろう。
しばし悩んだ末、加山はポンと手を打った。

 「そうだ新次郎、昴に電話して聞いてみようじゃないか、買っていいかどうか」
昴がNOと言えば諦めてくれるだろうと思ったのだが、しんじろーはキリリと眉を吊り上げてきっぱりと言った。
「だめです!」
「でもな、一応それも武器だし、足に落としたりしたら危な……」
「すばるたんにはないしょなんです!」
説得しようとすればするほど、新次郎はますます意固地になっていくようだ。
「それにな、お金もこれじゃ足りないぞ」
「たりてるもん!」
「いいか、数えてみるからな、よーく見てるんだぞ」
加山は財布をひっくり返してカウンターの上に小銭を撒いた。
「この小さい奴が、ひとつ、ふたつ……」
「おさいふはかえしてください」
「おう、ほれ」
「ありがとうございました」
「……で、だ。こっちの銀色のが、ひとつ……ふたつ……ってあれ?!」
加山が振り返ると、すでにそこに子供達はいなかった。

 

 「重くないか? しんじろー」
「へ、へいきです……」
「銀行に行くんだぞ、けっこう遠いから、途中までリカが持っててやる。代わりにノコを持っててくれ」
リカは新次郎から鉄扇を奪い、代わりに自分の頭に乗っていたノコを手渡す。
「おもいですよ、りかたん」
「平気だ! リカは強いんだからな!」
「うきゅ!」
頭の上のノコも楽しげに鳴く。
「ありがとうございますりかたん」
「リカはしんじろーのおねーさんだからな。これぐらい全然平気だぞ!」
ずんずん歩くリカを新次郎は頼もしそうに見つめた。
ノコを抱っこできるのも嬉しい。
それになにより、昴に扇を買えた事が嬉しかった。

 

 

 「昴、お前のキャメラトロン鳴ってたみたいだけど?」
舞台での練習中に、昴は遅れて現れたサジータに声を掛けられた。
キャメラトロンは楽屋に置いたままにしてある。
「僕の?」
「ほら、持ってきてやったよ」
差し出された機械を受け取って、電文を読む。
「加山から……? 加山が僕になんの用……。……! ……? ……!!」
文章を読み進んだ昴は絶句しているようだった。
覗き込んでいたサジータが眉を寄せる。
「なに? 何が書いてあった?」
聞いたが返事は返ってこない。
キャメラトロンをさらに読み進む昴の手がプルプルと震えている。
かつてないほどに動揺している昴を見て、サジータはなんとなく察しがついた。
おそらく新次郎関連だ。
「……僕は少し離れる」
「はぁ? 離れる? 練習は?」
「練習は後だ。僕はサニーサイドに用事がある……」
ドスの効いた低い声。
目が据わっている。
「あ、ああ……わかった。いってらっしゃーい」

 ずんずんと歩いて行く昴を手を振って見送って、サジータは練習中の他のメンバーを振り返った。
ジェミニもダイアナも、今の恐ろしい声を聞いてしまっていた。
「サ、サニーさん、大丈夫かな」
「おじさま……」
「あたしたちに出来る事は祈る事だけだね」
3人で身を寄せ、頷きあう。
あんな恐ろしい昴を見るのは久しぶりだった。
これからあの昴と対峙しなければならないサニーサイドの無事を祈らずにはいられない。

 

子供だけでお使いに出した事がバレた。

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サニーさんピンチ。

 

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