遠くにありて 1

 

 ある晴れた日、昴は以前新次郎と交わした約束を守り、彼を自分のスターに乗せてやる事にした。
いつ大人に戻ってしまうかもわからないし、子供のうちじゃないと一つの機体に二人で収まるのは無理だから。
「これ? すばるたんの? えっと、らー、らんだ、む」
「ランダムスター。どう? 気にいった?」
灰紫のその機体に、新次郎は手を伸ばす。
「すばるたんにそっくりですね!」
「ふふ、そうかい」
整備室では彼らの様子をみんなが見守っている。
整備士達はもちろん、星組の面々も。
せっかくだから、久しぶりに全員で出動しようという事になったのだ。
と言っても事件があったわけではないから、ただの演習だけれど。

 「しんじろーとなかよくしてくださいね」
ランダムスターの膝の辺りをペシペシと叩き、それから新次郎は磨きぬかれたその機体に抱きついた。
「あ!」
思わず整備士達が声を出す。
新次郎に関節部の油がついてしまうと思ったからだ。
けれども新次郎は綺麗なままだったし平気な顔。
ほー、とみんなの安堵する溜息が聞こえて、昴はつい苦笑してしまった。
昴自身は何も心配していなかったから。

 なぜだかわからないけれど、新次郎はスターの特性を良くわかっているように見えた。
以前、彼のフジヤマスターに乗った時は、色々と考えたりする間も無く、とんでもない事体になってしまったけれど、
よく思い出してみると、彼は触れてはいけない場所に一度も触っていなかったし、
何よりスターが彼を大事にしているように、そう感じたのだ。
今現在もそれは感じる。

 前まで、昴にとってランダムスターは身を守る道具の一つにすぎないと思っていた。
きちんと整備するのも、自分と機械との同調率を上げるのも、すべて己と仲間の安全を守る為だ。
外見を美しく保つのは相手を畏怖させる為の手段にすぎない。
けれども今、新次郎が昴に似ていると言ったその機体に、なんとなく感情のようなものを感じる。
「ランダムスターは何か言っている?」
昴は試しに聞いてみた。
彼はフジヤマスターと普通に交流していたようだったから、他のスターとも話せるのではないかと思った。
けれども、しばしスターの膝に手を当てて、何事かを考えていた新次郎は振り返り首をふる。
「すばるたんのだから、やっぱりしんじろーにはわかんないや」
「そうなのか?」
昴は首をかしげて機体に近づいた。
試みに、彼がしていたように手を触れる。
金属のつるりとした感触。
外気よりもずっと冷たい表面。
そこから何かを感じられないかと目を閉じるのだが。
「……」
「どうですか?」
問われ、昴は機体から手を放して苦笑した。
「……うーん、難しいな。今度スターと会話する方法を教えてくれ」
やはり何も感じなかった。

 「リカはシューティングスターとはなしするぞ!」
そこへすでに機体に乗り込んだリカが歩み寄ってきた。
スピーカーを使って新次郎たちに自慢げに話す。
「ノコもスターもしんじろーもすばるも、みーんな友達だからな!」
「なるほど」
昴は頷いた。
確かにリカはノコと会話している。
それには昴自身、違和感を感じる事もない。
彼らは幼さゆえに言葉の通じない相手と心を通わす事が出来るのかもしれないが、それだけではない気がした。
なんとなく羨ましいし、出来ない事が残念に思える。

「すばるたん! しんじろーも! しんじろーもはやくのりたいー!」
「そうだね。二人で搭乗してもかまわないかい? ランダムスター」
昴はもう一度、今度は声に出して愛機に問うてみた。
音になっては聞こえなかったが、昴は顔をあげる。
―― もちろん大歓迎だ。
そんな風に、心に返答があったように感じたから。

 

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子供達が羨ましい。

 

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