甘い羊 8

 

 着陸は危なげなく完了した。
飛行形態から陸戦体型に戻った瞬間、ほんの少し揺り戻しがあったが、
新次郎は特に怖がる様子もなく落ち着いている。
昴は新次郎の手の上から、いつも自分がしている以上に慎重にレバーを引き、
可能な限り衝撃をやわらげなから静かに大地に着陸した。
地面に到着すると、待ち構えていた杏里と整備士達が駆け寄って来る。

 「良かった! 二人とも大丈夫ですか!」
昴がハッチを開け周囲を見渡すと、そこにいた面々はみな安堵した様子で息をついた。
スターを輸送する為に大型のトラックも待機していたが、公園にそんなものを搬入するにはかなり荒業を使ったに違いない。
サニーサイドがどこかに圧力をかけたのだろう。
新次郎は、ぴょん、と、スターから飛び降り、スターの膝の辺りを手の平で叩いてやっていた。
「たのしかったね」
にっこり笑ってそう言って、昴のほうに向き直る。
「おともだちになったんです。またとぼうって!」
「そうか。今度はあまり無茶をしないように、良く言い聞かせてやってくれよ」
昴はコックピットに留まったままハッチに肘をついて、苦笑しながら彼らの様子を眺めた。

 

 「それでね、大河さん……じゃない。新次郎君ったら、ぜんっぜん反省してないんですよー」
杏里は午後の出来事を、楽屋でみんなに語っていた。
当の新次郎は戻ってくるなり眠ってしまい、サニーサイドに運ばれて、司令室のソファで昼寝している。
初めてスターに乗り、使ったことのない方法で霊力を消耗して疲れてしまったのだろう。
本来なら仮眠室に運んでやりたいところだが、中身が子供なので、目が覚めたときに1人きりだとかわいそうだ。
「にこにこしちゃって。もー。みんながどんなに心配したか、全然わかってないんだわ」
「でもかわいかったでしょ?」
「そりゃ、かわいかったけど……。って、プラム!」
杏里が真っ赤になってしまったので、皆も笑った。

 「でもすごいよね、ちゃんとスターが動くと思わなかったよ。ボク」
「中身が子供でも、大河は大河。何か通じる物があるんだろう。君だって、最初の時からちゃんと操縦できたじゃないか」
そう言われて、ジェミニは自分が始めてスターに乗り込んだ時の事を思い出した。
与えられた緋色の機体。
一目見た瞬間から、古くからの友人に出会ったような気がしていた。
沢山あるスターの中で、それだけが特別に輝いて見えた。
他のどれでもなく、それが自分に与えられた物なのだとすぐにわかったし、空を飛んでもまったく怖くなかった。
「そっかあ、スターだもんね。いきなり飛んでったって、中の人を傷つけたりしないよね」
もしも自分がそのような状態になっても、きっとロデオスターは全力で自分を守ってくれると思った。
いつも、そうやって守ってくれているように。
「なんだかあたしも乗りたくなってきたよ。午後は整備の手伝いに行って来ようかねえ」
サジータは頭の後で腕を組む。
本来彼女は機械や乗り物がすきなのだ。
バウンサーだって、全部彼女が自分で整備しているのだから。
「リカも! リカも乗るうー!」
「まあ、みなさん大河さんに影響されてしまったんですね」
コロコロと笑いながら、ダイアナはみなのカップに紅茶をついでまわる。

 

 「すばるたーん!」
みんながゆったりと談笑していると、聞きなれた子供の声と共に、小さな体が楽屋に転がり込んできた。
「新次郎!」
昴は彼を抱きとめて目を瞬く。
さっきまで大きかったのに、また元通りの子供の姿。
服も着替えていたから、おそらくサニーサイドがシアターに置いてある予備の服を着せてくれたのだろう。
「ねえねえ、またちっさくなちゃった。すばるたん、しんじろー、さっきまでおおきかったですよねえ」
不思議そうに見上げて来る大きな目。
昼寝していたので、夢でも見たのかと思っているのかもしれない。
「ああ、大きかったよ。きっと、スターが君と一緒に飛びたくて、ちょっとの間だけ大人にしてくれたんだろう」
優しく頭を撫でてやり、自分の言葉に頷いた。
本当にそうかもしれないと思ったからだ。
「こんどは、すばるたんのにのっけてくれますか?」
「ん? ランダムスターに? そうだな……」
それならば安心して飛べる。
昴は思案するふりをして、顎に手を当てた。
見守る皆も、答えはわかっていたから、何も言わずにいてくれる。
「ふふ。いいよ。今度は僕が乗せてあげよう。晴れた日に……」

 

 次の整備の予定はいつだっただろうか。
昴は頭の中にこれからのスケジュール表を思い浮かべた。
その日が晴れていたら、その日まで彼が子供だったら。
きっとこの子をのせて飛んであげよう。
今日、彼が僕をフジヤマスターに乗せて、空を飛んでくれたように。
僕も彼のように、風の音を聞き、鳥の声を聞いてみよう。
もしも彼が大人に戻っていたなら、その時はお互いのスターを駆って、翼を並べて飛ぶのもいい。
遠くない未来に、確かに経験できる、素晴らしい夢。

 

すーこ様のキリリク、
中身だけ子供のままの大人じろ。でした。
逆コナン、楽しんでいただけたでしょうか。

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OVAで……。

 

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