美しき日常 9(完結)

 

 その後何日か、わたしはお二人の様子をじっと観察していました。
あ、前も観察していましたけれど、秘密を知ってからは、その点を重点的に。
でもお二人はなかなか秘密の会話をなさってくださいません。

 確かに日常の生活では、秘密で会話をなさる必要なんてほとんどないですものね……。
事あるごとに、お二人の様子を観察してしまうのですが、あんまり凝視してしまってもいけませんし。
待ち望んでいたチャンスは休日の前の日にやってきました。
みんなでテラスのテーブルに座って昼食を取っていたときの事です。
食事を終えて、食後のコーヒーを楽しみながらの、たわいない談笑。
その時わたしは確かに見ました。

 昴さんと大河さんが一瞬視線を交わし、昴さんの指先がかすかに動いたんです。
ほんの数ミリテーブルから指を浮かせ、リズムを取るように、とんとんと、音を立てずに叩く。
声が出そうになりました。
とっても優しい、美しい光景だったから。
(−−・−− −−−・− ・−・−− ・・ −・−−− ・・−・・ ・−−− ・−− −−・ ・−・ ・−・・・ −−−・ ・・−)
わたしは必死でそのリズムを読み解こうと目を凝らしましたが、やっぱり難しすぎて意味がわかりませんでした。
でも大河さんはかすかに頷いて嬉しそうに笑ったんです。
きっと、素敵な内容だったのでしょう。

 わたしが先日昴さんに教えていただいた、秘密の意思疎通方法は、モールス信号でした。
それも和文で、日本語のわからないわたしには難解すぎるのですが、そんな事はいいんです。
お二人が今、ナイショで会話をなさったという事実が、わたしを幸せにしたんです。

 大河さんは昴さんにだけわかる程度にかすかに頷きました。
ああ、お話の内容がとっても気になります。
そう思ってわたしがどきどきしていると、昴さんが再び机を叩きました。
今度は、さっきより短い文。
(−・−・・ ・・−・− ・−・・ ・・ −−−・− −・−・・ −・ ・・ −− )
その瞬間、わたしの鼓動が跳ね上がりました。
だって、だって、その単語は……!

 わたしは、大河さんと昴さんがモールス信号で会話していると知って、図書館で本を借りて勉強しましたが、きちんと理解できると自信を持って言えるのは、ほんの二つの単語だけ。
沢山の言葉を覚えるのは、とても難しくてやはり無理だったので。
それは、LOVEと、LIKEを意味するそれぞれたった2文字ずつの日本語。
だってそれさえわかれば、お二人の愛の告白を知ることができるじゃないですか!
日本語もモールス信号もわからないわたしも、その二つだけは必死で覚えました。

 そして今、昴さんは、間違いなく、そのうちのひとつを……!
慌てて大河さんを見ると、俯いて頬を染めていらっしゃいます。
ああ! やっぱりわたしの解読した単語は間違っていなかったんですね!

 「おおおー? ダイアナ、顔まっかだぞー」
「え?!」
リカに指摘されて慌てて顔に手を当てます。
「熱でもあるんじゃないの?」
ジェミニさんが心配そうに覗き込んできました。
大河さんのように、下をむいていればよかった!
「い、いえ、いえ! 大丈夫です!」
「まあ元気ならいいけどさ」
サジータさんの怪訝そうな声を筆頭に、みなさん首をかしげていらっしゃいます。

 昴さん以外。
昴さんだけは、かすかに微笑んで、そ知らぬ顔でコーヒーを飲んでいらっしゃいました。

 

昴さんのモールス信号を解読したい方はこちらで。
信号の部分をコピペして、和文で変換してください。

http://www6.ocn.ne.jp/~miz2/morse.htm

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昴さんはダイアナさんが見てるとわかっててやったと思われます。

 

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