美しき日常 8

 

 舞台の稽古をしながら、わたしは昴さんに話しかけるチャンスをうかがっていました。
どうしても、お二人の秘密が知りたかったんです。
だって、大河さんと昴さんは、視線を交わすだけでいろんな会話ができるようなのですもの!
心が通じ合っているという考えも素晴らしいですけれど、それだけじゃ説明が付かない部分もあります。
もっと、細かい打ち合わせのような物まで出来るようなのです。

 だからわたしはその秘密を知りたかったのですが、公演が近い今日、なかなか練習に区切りが付きません。
ようやく出番がないシーンの打ち合わせに変わり、わたしは楽屋に戻りました。
でも昴さんはまだお話中……。
それで仕方なく、鏡の前に座って、そこに映るわたし自身と、視線を交わしてみます。

 ……。
うーん……。
視線で色々な事を伝えようと試してみるのですが、簡単な表情以外はやっぱり無理な気がします。
まばたきの回数などかしら。
ぱちぱちと目を閉じてみますが、とっても不自然。
お二人は、見詰め合っている間とっても自然な様子だったんです。
やはり違う方法なんですね。
そうなるとやっぱりテレパシー、でしょうか……。
あんなに好きあっていらっしゃるお二人なのですから、それも間違っていない気がしてきます。
なんて素敵なのでしょう……。

 「……ダイアナ」
「は、はい!」
突然声をかけられてわたしは驚いて振り向きました。
昴さんが、ちょっと困った顔で立っていらっしゃったんです。
「少し前から声をかけていたのだけれど気が付かなかった?」
「ご、ごめんなさい」
わたしったら、そんなに夢中になっているつもりではなかったのですが。

 「昨日の事を謝罪したくてね」
昴さんはそういうと、優雅な動作でソファに腰掛けました。
細くて真っ白な足につい視線が。
あ、そんな風に考えている場合ではありません。
「謝罪だなんて、昨日は助けていただいて、わたしのほうこそ……」
「いや、その事じゃなくて、僕と大河の事で気をもませてしまったのではないかと思って」
ああ、その事ですか。
確かに心配ではありましたけれど、喧嘩はきっと長く続かないとも思っていましたので。
でもこれはちょっとチャンスじゃないかしら。
わたしは思い切って聞いてみる事にしました。

 「昴さん、一つだけお聞きしてもよろしいですか?」
「うん? なんだい?」
「昨日、大河さんとどうやってタイミングを合わせて反撃なさったのですか?」
「!」
「それに、今日、テラスでも、言葉を交わさないのに、会話しているように見えたんです」
「……」
「間違いだったらごめんなさい。もしかして、お二人は視線だけで意思を通じ合わせる事が可能なのじゃないでしょうか」
わたしが一気に聞いてしまうと、昴さんは前髪をかき上げて笑いました。
「ふふっ、見抜かれているとは僕もうかつだった」
「ではやはり……」
「いや、違うんだダイアナ」

 昴さんは説明してくださいました。
どうやって、大河さんと会話をしているか。
それはとっても素敵で驚くべき内容だったのですが、わたしが秘密を暴いてしまったことで、今後お二人がその秘密の会話が出来なくなってしまうのではないかと思い、少し心配になりました。
その事を伝えると、昴さんは全然平気という表情。
「気にしなくていいよ、大した会話はしてないんだ。でもそうだな、大河には秘密に」
「わかりました。おまかせください!」
こんな幸せな事はありません。
お二人がナイショで会話している様子を、わたしだけが知ることが出来るんです。
しかも、大河さんがその事をしらないと言う事は、わたしの前で赤裸々な打ち明け話をして下さるかも!
ああ……、どんな会話をしてくださるのでしょう。
その瞬間のことが楽しみすぎて、頭がクラクラしてしまいます。

 でも、会話の内容を知る為には、私も相当のお勉強が必要なようでした。
だからこそ昴さんも気軽に教えてくれたのでしょう。
全部の内容を理解する事はできなくとも、ほんの少しだけでもわかるように、わたしはその日の帰り、図書館に寄って必要な本を何冊か借りたんです。

 

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