美しき日常 7

 

 ハーレムで騒動があった翌日、わたしは少しだけ重い気分でシアターに向かいました。
大河さんと昴さんが、昨日あの後どうなったのか、とても気になっていたんです。
もしかしたら、昴さんはマーキュリーに戻ったかもしれない。
すっかり仲直りして、いつものように一緒にシアターにいらっしゃるかも。
そんな風に期待して出勤したのですが、事体は全然良い方向に向かっていませんでした。

 「おはようございますダイアナさん」
シアターで最初にお会いしたのは大河さん。
大河さんはどうやらお一人で仕事にいらっしゃったようです。
いつもなら昴さんと仲良く通勤していらっしゃるのに……。
「ダイアナさん、昨日はごめんなさい。ぼくが未熟なばっかりに、怖い思いをさせてしまって」
「とんでもありません! 無事に済んだのは大河さんのおかげです」
本当にそうですよ、大河さん。
だって、わたしひとりだったなら、きっと大変な事になっていましたもの。
けれど大河さんは悲しそうな顔。
「いいえ、昴さんがいなかったら、きっとぼくも掴まっていました」
「大河さん……」
昨日は、昴さんがこなくても大丈夫でした、なんて言っていらしたのに。
やっぱり、喧嘩してしまった事で後悔なさっているのでしょう。

 私はしょんぼりしている大河さんをひっぱって、屋上にあがりました。
集まっているみなさんと楽しくお話できれば、元気が出ると思ったんです。
そこではジェミニさんとサジータさん、それにリカが、テーブルについてお茶をしていらっしゃいました。
いつもなら、昴さんもいる時間なのですが、今日はまだ来ていないようです。
「おはようー、あれ、新次郎、昴さんは?」
ジェミニさんは大河さんが一人なので首をかしげていらっしゃいます。
「うん、今日は別々に来たんだ」
「はあん、めずらしいね。まあ突っ立ってないで、あんたらも座りなよ」
サジータさんが席を勧めてくださって、私も大河さんも輪に加わります。
けれどやはり大河さんは元気がありません。

 そこで談笑していたのは、ほんの数分だったでしょうか。
エレベーターが動いて、昴さんが現れたんです。
昴さんは、いつ見ても動きのすべてがしなやかで、本当に素敵です。
歩くバランスが完璧なのでしょう。
医療関係者として、昴さんのバランス感覚にはいつも注目してしまいます。
こんな場合だというのに、つい。
「おはよう」
昴さんは、いつもとまったく変わらない様子で、ほんの少し笑顔を浮かべて挨拶なさいました。
アルカイックスマイル。
今のわたしにはわかります。あの笑顔の中には様々な意味が込められていると。
「おっはよーすばる! おそかったな!」
わたしが考えている間にリカが昴さんに遠慮なく抱きついて、ようやく全員が揃います。

 でもわたしは少し緊張していました。
昨日から、昴さんと大河さんがちょっとだけ喧嘩をしている事をしっていたので。
それも、わたしが原因と言っても間違いではありません。

 昴さんは、リカの頭をなでてあげていました。
大河さんの斜め向かいに腰掛け、二人視線を交わして。
それは決して長い時間ではなかったのですが、昴さんがふっと笑ったんです。
やわらかく、幸せそうに。
慌てて大河さんの方をみると、大河さんもニコニコと、さっきとは打って変わって幸せそうな笑顔。

 さっきの一瞬に何が起きたのか、わたしにはさっぱりわからなかったのですが、とっさに昨日の事を思い出しました。
昨日のお二人は、視線を交わして、その間に何か細かい部分まで打ち合わせをしたようでした。
そして今も、ほんの数瞬の間に、たちまち仲直りしてしまったんです。

 お二人にはやっぱりなにか秘密があるようです。
昨日は聞きはぐってしまいましたが、今日こそはきっちりとその秘密を探り出そうと思います。

 

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ますますストーカーっぽく。

 

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