美しき日常 6

 

 「……あの、大河さん」
どうしても、さっきお二人がなんの合図もなしに行動を開始した理由が知りたかったわたしは、
思い切って直接聞いて見る事にしました。
「はい?」
わたしが声をかけると、昴さんと何か相談していらっしゃった大河さんが振り返ります。
「ダイアナさん、怪我とか、していないですか?」
心配そうな表情で、わたしの肩にふれ、丁寧に土を払ってくれました。
なんだか少しぽーっとしてしまいます。
私がぼんやりしていると、やさしい大河さんの目と視線が合い、
とたんに返ってくる、にっこりとかわいらしい笑顔。
ああ、呆けている場合ではありません。ちゃんとお聞きしないと……。
「……あの、大河さん、それでその、さっき……」
「まったく、君がついていながらなぜあんな危険な目にあったんだ」
昴さんがわたしの言葉を遮って、呆れたように腰に手を当て大河さんを睨んでいます。
それを聞いた大河さんはむっとした表情。
「相手が大勢いたんです。安全に逃げようと思ったらちょっと手間取って……」
「修行が足りない証拠だな」

 ああ、なんだか様子がおかしいです。
お二人はさっきの戦闘中に、キラキラと見詰め合っていた雰囲気から一転、なにやら険悪な視線を交し合っています。
「あ、あの、お二人とも……」
「昴さんだって、さっきのぼくと同じ状況だったらきっと掴まっていました!」
「それはどうかな。僕は君とは違う」
「それに、昴さんが来てくれなくてもなんとかできました!」
「あの……」
もう全然わたしの話を聞いてくれません。

 「行こうダイアナ」
「え?! でも……」
「大河は少しここで頭を冷やしてくるといいんだ。意地を張らずに己の至らなさを知るべきなんだから」
昴さんは私の手を取って歩き出します。
大河さんも止めません。
わたしが何かを言うより早く、マーキュリーを出て、ずんずんと路地を歩いて行ってしまうんです。
「す、昴さん……」
「ああ、すまない、歩くの早かった?」
歩調を緩め、優しい視線。
「サジータの所へ行くんだったね」
「いえ、もういいんです」
本当は最初から用事なんてないのですし。

 「それよりも昴さん、よろしいのですか?」
「何が?」
「大河さんを……」
一人置いてきてしまって。
せっかくお二人でデートなさっていたのに。
わたしが好奇心でストーキング行為をしていなければ、今頃はまだ仲良くしていらしたのにと思うと申し訳ないです。
「……うん、まあ、勢いだ」
苦笑する横顔は、わたしが見たことのない表情。
「僕はねダイアナ。大河の事になると少々頭が悪くなる」
「……?」
昴さんの頭が?
そんな事って、あるのでしょうか。
「さっきの状況では、きっと彼ではなく僕が一緒にいても、同じような結果になっただろう。別に何も怒っていなかったんだけど」
「では、どうして……」
「どうしてだろうね」
振り返った昴さんは、なんだか少し恥ずかしそうにしているように見えました。
「……さっき、君と、大河が……。いや、……こんな事は言うべきじゃないな」
言葉を切ると、片手を挙げて道を走ってきたタクシーを止め、後部の扉を開けてわたしに向かって手を差し伸べてくださいます。
「さあ乗って、僕は少し歩く事にする」
「でも……」
ここで一人になっては昴さんが危険ではないのですか?
そう聞きたかったのですが。
「大丈夫。僕はここに慣れているし、さっき連絡したからケンタウロスも出て来ている」
「はい……」
わたしには、頷く事しかできません。

 立ったままわたしを見送る姿がいつもよりも小さく感じられて、
遠ざかる昴さんの姿を、タクシーが角を曲がるまでずっと見つめてしまいました。
お二人のデートの邪魔をして、一番知りたかった、どうやって意思の疎通をしていたのかも結局わからず、
わたしは悲しい気持ちのまま家路についたのです。

 

 

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扉をあけてくれるよ。

 

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