ぼくの調査報告 4

 

 昴さんはぼくが嫌いになったのかもしれない……。
昴さんともっと仲良くなりなくて、昴さんの事を調べ始めたのに、
はっきりわかったのはこの事だけだ。

 もうぼくと一緒にいたくないのかな。
今までだったら、ぼくが買ってきた食べ物は、あんまり昴さんの好みに合わなくても、
「仕方がないな」って笑いながら食べてくれたのに。
今日はいらないって言われちゃったんだ。
昴さんの好きな物だったはずなのに。
ぼく、何か昴さんに悪い事をしちゃったんだろうか。

 ぼくは昼休みに偶然入った部屋で立ったままじっとしてた。
動くと泣いてしまいそうだったから。
俯いて、目をギュッと瞑って……。
どうしていいかわからない。
もしぼくが昴さんの気に障るような悪い事をしたんだったら、きちんと謝らないといけない。
いつまでもこの部屋で立ってるわけにはいかないんだ。

 ぼくは勢いをつけて歩き出して、屋上に向かった。
途中で目元をぐいっとやって、涙が零れないようにする。
大丈夫。昴さんとあとでちゃんと話し合おう。
そうすれば、きっと解決する。
そうしたら、また一緒にご飯を食べて、一緒に帰ろう。

 次の舞台が始まるまであと一日しかなかった。
つまり、もう明日なんだ。
やんなきゃいけない事は山ほどあったから、その間は余計な事を考えないでいられた。
昴さんたちは舞台で最終的な通し稽古をしているはずだけど、ぼくはサニーさんと一緒に事務の仕事をやってるから見に行けない。
午前中と同じように、舞台に必要な色々な物を、最後に絶対間違いがないか確認してるんだ。
それに今は、きっと見に行かない方がいい。
だって、見に行ったりしたらまた泣いちゃう。

 

 「どうしたんだい大河君、昼間はあんなに元気だったのにしょげちゃって」
サニーさんにそういわれた時、ぼくはびっくりしてペンを落っことしそうになった。
「な、なんでもないんです!」
「そうかい? ならいいんだけどね」
急に聞かれて驚いたけど、それからしばらくは二人で黙ったまま仕事を続けた。
だから次にサニーさんが言った言葉にぼくはさっきよりももっとびっくりしたんだ。
「……昴のことなら気にするなよ」
「え?!」
「君がそんなにしょげてるって事は、昴は失敗したんだろう。心配ない。すぐに仲直りできるさ」
「失敗!?」
なんの事を話しているんだろう。
すぐに仲直りできるってどうして??

 「ああ、喋りすぎちゃったなあ。デスクワークで疲れているせいだ。とにかく、あと何日かは昴の事は気にせず舞台に集中したまえ」
「でも……」
そんな意味ありげな事を聞かされたら気になるよ。
「ボクをもっと信用してくれよ」
サニーさんはニヤリと笑って肩をすくめた。
「は……はい」
少しだけ迷ったけど、多分これ以上は聞いても教えてくれなさそうだったから、ぼくはしぶしぶ返事した。
サニーさんを信じてないわけじゃないけど、事情を知っているなら教えてほしかったな。

 わかんない事ばっかりで何がなんだか、どうしていいかもわからないけれど、
今はすぐに仲直りできるっていうサニーさんの言葉を信じるしかない。
だって、そうしないと、昴さんのことを考えただけで胸がぎゅーっとなって胃が重くなるから。

 

 仕事が終わって下に降りると、みんなはまだ稽古を続けているみたいだった。
このまま帰るべきだろうか。
エントランスに立って、少しだけ考える。
昴さんに会いたい。
でも、昴さんは迷惑に思うかもしれない……。

 それなのに、気が付いたらぼくは客席の扉を開いていた。
目に飛び込んでくる舞台のライト。
中央に立っているのはぼくの昴さん。
ぼくの……。
それまで完璧に演技をしていた昴さんは、ぼくに気が付くと動きが止まった。
みんなは昴さんの動きが不自然だったせいで、ぼくが入ってきたことがわかったみたいだった。
通し稽古の流れが止まり、みんなの視線がぼくに集中する。
「昴さん! ぼく、先に帰ります! 明日はまたおにぎりを作ってきますからね!」
返事がなくてもいいと思った。
いらないって言われても。
だから、昴さんの言葉を聞いて、ぼくはまた泣きそうになってしまった。

 「ありがとう大河。また明日」

 「は、はい、また明日! それではみなさん、お先に失礼します!」
さっきとは違って嬉しくて涙が零れそうになってきた。
だめだめだめだよ! ないちゃだめだ。
昴さんが普通に返事してくれただけでこんなに嬉しいなんて、ぼくってやっぱり昴さんが大好きなんだ。

 

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サニーさんも知っているらしい。

 

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