ぼくの調査報告 2

 

 昴さんの調査を始めて2日目。
なんだか昨日よりも昴さんがぼくのことを避けている気がする。
気がするだけだと思うけど、今日はまだ朝から一回しかしゃべってない。
「おはようございます」って言ったら、
「おはよう」って返してくれて、そのまま歩いて行っちゃったんだ。
これが一回に入るなら、だけど。
それによーく考えてみたら、ここ三日ぐらい同じようにちょっぴりしか喋ってないような。
いっつもぼくから話しかけてるし……。

 昴さんがとっても忙しい人だってぼくもわかってる。
だから、時々はこんな風にあんまりお話もできない日もあると思う。
明日は新しい公演をやる日だから、ぴりぴりしてるのかもしれないし。
寂しいけれど公演が終わるまでちょっとの我慢だ。
お昼休みには一緒にお昼ご飯を食べよう。
そうだ。昴さんの好きなベーグルを買ってくるのもいいな。
昴さんは、野菜がいっぱい挟まったホットベーグルが大好きなんだ。

 「大河君、聞いてるかい?」
今はサニーさんの部屋で、公演直前の最終的な色々をチェック中。
「あ! はい! 聞いてます聞いてます!」
ぼくは慌てて返事した。
本当はあんまり聞いていなかったんだけど、聞いてなくても大丈夫。
仕事中、サニーさんは色々な事を話してくれるんだけど、
かわいい女の子がどうとか、経営の大変さがどうとか、タメになりそうでならない、ぼくにはさっぱりわからない事ばっかりなんだ。
いつも適当に返事をしているうちに、段々違う事を考えちゃう。

 「君も色々大変だよねえ、恋人が昴じゃ……」
「大変なんかじゃありません。とっても幸せですよ」
えへへ。
こういうのをノロケって言うんだよね。
でも本当に幸せだからいいんだ。
「君も昴ぐらいの収入を得られるようになるといいんだけどねえ。隊長報酬だけじゃ厳しい物があるよね」
ん? 昴さんの収入? サニーさん、昴さんがどんな仕事をしてるか知っているのかな。
「サニーさん、昴さんのお仕事知ってるんですか?」
丁度良い話題になって、ぼくは飛びついた。
だって昴さんの事を調べている最中だからね。ないしょで、だけど。
サニーさんが知ってるなら教えて欲しい。
「昴の仕事? 昴の仕事なんて手広くやりすぎててボクは把握しきれてないよ」
「手広く……?」
「株はもちろん、不動産、公共事業……。とにかく色々さ。大雑把に指示を出して、細かいところは任せているみたいだけどね」
株も、不動産も、公共事業も、ぼくにはさっぱりわからない。
「よくあれで体が持つと思うよ。小さいくせに」
そうか……。昴さんは色々な事をしているんだ。
もしかしてそうかなって思ってたけど、やっぱりそうなんだ。

 あっちこっちの銀行に寄るのは、そういう事情があるからなのかなあ。
でもぼくが、今何をして来たんですか? って聞くと、君は気にしなくてもいいんだよって言われちゃうんだ。
「ああ、ボクが君に話した事は秘密にしておいてくれたまえよ」
「どうしてですか?」
別に、秘密にしなきゃいけないような悪い事じゃないのに。
「昴は君に負担に思って欲しくないんだよ。最近は少しずつ人に売って手放しているみたいだしね。おかげでボクの事業にも支障が出てる」
「手放して?」
どうしてそんな事を?
「そりゃ時間が欲しいからさ。君と一緒にいたいんだろ」
サニーさんは伝票にハンコを押しながらなにげなくそう言った。

 サニーさんはなにげなく言ったつもりなのかもしれないけど、ぼくにはものすごい衝撃だった。
ぼく……。
ぼくの為に……。
昴さんが……。
「こらこら、そんな事で涙ぐむなよ。早く仕事を終わらせて、どっかに行くんだろ?」
「は、はいっ!」
ぼくは慌てて書類の束を揃えなおした。
でも、昴さんがそんな風にしてくれていたなんて考えた事もなかったから。
デートの途中でいつも銀行に寄ったりして、ちょっと寂しいな、なんて思ったりして。
昴さんは忙しい合間を縫って、ぼくの為に時間を作ってくれていたのに。

 急いで午前中の仕事を終わらせて、お昼休みの前にベーグルを買いに行くんだ。
昴さんの好きなベーグル。
ぼくは昴さんの為になにもしてあげられないけど、ほんのちょっとでも喜んでもらえたら嬉しい。
出来る事だけでも、精一杯やってあげたい。

 

 

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昴さんったら。

 

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