ぼくの調査報告 1

 

 昴さんには秘密がいっぱいある。
それに気が付いただけでも、ぼくってなかなかすごいと自分でも思う。
だって、他の皆は、昴さんの性別が秘密ってだけで、他の秘密には気が付いていないみたいだから。

 それに、ぼくは昴さんの性別を知っている。
えへへ。
これはぼくの秘密だ。
昴さんの秘密を知っている秘密。
なんだかちょっとわけがわからなくなってしまったけれど、とにかくぼくは色々知ってるんだ。
知ってないって事を知ってる。
あ、また同じような事言っちゃった。

 

 昴さんの性別以外の秘密は、たとえばお仕事だ。
いつも銀行に行ってるけど、同じ銀行じゃなくて、あっちこっち違うとこにいく。
なんで知ってるかと言うと、昴さんはデートの途中でも遠慮なく銀行に寄るからだ。
「すまないけれど、少しだけ待っていてくれないか?」
そんな風に言って、昴さんはぼくを待たせて銀行に入る。
中まで付いていった事もあるよ。
その時は、銀行の奥にある部屋の真っ黒なソファに腰掛けて、ぼくは昴さんを待ってたんだ。
普通、銀行で待っている人は、ずらっと並んだ椅子の一個に座って待っているけれど、
昴さんと銀行に入ると、いきなり立派な人が駆け寄ってきて、どうぞどうぞ、ようこそいらっしゃいました。
とか言って、揉み手をしながら奥へと案内してくれる。
揉み手かあ。
日本人しかしないのかと思っていたけど、アメリカ人もするんだなあって始めて知ったよ。

 奥へと案内されると、豪華な応接セットのある部屋に通されて、そこは冷房もガンガンに効いたすごい部屋だったのだけれど、
コーヒーなんか出してくれるし、数人の立派な人が一生懸命接待してくれるしで大変だった。
そこでそのまま仕事の話をするのかとおもったら、昴さんはその中の1人の人と出て行ってしまって、
結局ぼくはそこでしばらく待ってたんだ。
1人で待ってたなら良かったんだけど、同じように取り残された銀行の偉い人たちと。
話す話題もなくてあの時は辛かったな。
今日のお天気とか、どうでも良い事を話したりして。
だから、それ以来ぼくは銀行に昴さんが入るときは外で待つ事にしている。
昴さんの用事は大体すぐに終わるし、あの部屋でコーヒーを飲んでいても楽しくないし気まずいからね。

 

 それから、他にも昴さんには秘密がある。
それは昴さんの嫌いな食べ物だ。
ぼくはまだそれが何かはっきりとは知らないのだけれど、
おにぎりの具の中に答えがあると思っている。
ぼくがこの前、母さんが送ってくれたお米で、みんなの分のおにぎりを作ってシアターに持って行ったら、
しきりに中身はなんだと聞いてきた。
おかかとシャケですって答えたら、ものすごく安心した顔で食べてたから、きっとオカカとシャケ以外の何かだ。
タラコか、明太子か、梅干か、それかワカメとかひじきとか。
おにぎりの具として入っていそうな物のどれかが嫌いなんじゃないかと思う。
ぼくは、タラコか明太子があやしいと思っているんだ。
なんかもっちりしていてツブツブで、ぼくも子供の頃ちょっと苦手だったから。

 

 そんな風に秘密がいっぱいの昴さんなんだけど、
この数日は特になんだかあやしいんだ。
仕事が終わった後、前ならいつも一緒に帰っていたのに、
練習が早く終わったときはいつの間にか先に帰っちゃってるし。
今日もぼくが露天風呂のお湯を全部抜いて、徹底的に掃除している間に帰っちゃったんだ。
何か秘密の事をしているんだと思う。

 ……。

 でっでもっ……。
もしかして、ぼくと一緒に帰るのが嫌になってたんだったらどうしよう。
そんな事ないと思うけど!

 先週はお昼も一緒に食べたし、その時ほっぺについたパン屑をとってもらっちゃったし、
えへへ……。
……。

 で……でもやっぱりちょっと心配になってきたかな。
この際だから、ぼくは昴さんの秘密をいろいろ探ってみようと思う。
多分、怒られないと思う。
まずは聞き込み調査から始めよう。

 

全部で10回の予定です。連続でアップして行きます。
大河の誕生日きっかりに終わる予定だったのですが、
コミケの関係で少しはみ出します。

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結構シリアスになります。

 

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